雅工房 『 日々これ好日 』

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継子と継母(5) ・ 今昔物語 ( 巻 26-5 )

          継子と継母(5) ・ 今昔物語 ( 巻 26-5 )

( (4)より続く)

子供の叔父である大夫介の弟は、「まずは、大夫介殿に急いで知らさねばならぬ」と言って使者を出すことにしたが、「手紙を差し上げよう」ということで、「申し上げる事があって参上いたしましたところ、『子供の姿が見えない』と承り、驚いています。急いでお帰り下さい。申し上げるべき事があります」と書いて持たせた。
使者は、馬に乗り急行したのですぐに到着し、息も絶え絶えに「若君がいなくなりました」と大夫介に言上した。

大夫介は、使者の言葉に驚き立ち上がったが、何分年老いていることもあり、そのままふらふらと気を失わんばかりになってしまった。
上司である守(カミ)に伝える余裕もなく、目代(モクダイ・国司の代官。大夫介の部下)にのみ事の次第を言い残して国府を出たが、途中馬から落ちそうになるのを従者どもが皆で抱きかかえ、ようやく家に帰り着いた。

帰り着くなり大夫介が「どういう事なのだ」と訊ねると、継母が出てきて足もとにひれ伏して、「あなたはお年を召され、これから末永く添うことはかないますまい。私は今少し後に残されますでしょうから、あの子をこの世の宝と思っておりました。それなのに、一体どういうわけで居なくなってしまったのでしょう。まだ幼いあの子を、敵と思って殺す者があるでしょうか。ただ、あの子はとても可愛い子供でしたから、京に上る人などが、稚児として法師に売ろうなどと考えて、さらって逃げたのかもしれません。ああ、悲しや、悲しや」と言い続けて、泣き止まない。
父である大夫介は、泣くにも泣けず、ただ大きなため息をつく様子で座り込んでいた。

弟は「哀れなことよ。本当は生きているのに」と思ったが、あの子がひどい目に遭ったこと思うと継母が憎くてならない。しかし、その気持ちを抑えて素知らぬ顔で、「今更どうしようもありません。これも何かの定めなのでしょう。さあ、私の家へ参りましょう。お心をお慰めいたしましょう」と誘った。
大夫介は「事の次第をよく調べて、生死のほどを確かめてから法師にでもなろう。この年まで生きてきて、このような目に遭うとはなあ」と言って、声をあげて泣くのも無理のないことであった。
弟は、そんな兄をあれこれとなだめ、策を講じて連れ出すことが出来たが、郎等たちはいる限り皆が付き従った。その中には、あの子供を埋めた男も加わっていた。
弟は「あの男は何としても連れて行こう」と考えていたが、自分から付き従ってきたので、「よしよし」と思いながら、さりげなく動向に注意しながら家に帰り着いた。

大夫介は、そこでも倒れ込んで泣き続けた。
弟はそんな兄をなだめて家の中に入れようとし、同時に腹心の郎等一人を呼び寄せて、例の男を気づかれないように監視させた。そして、「二、三人ほどで監視して、わしが『捕えよ』と言ったら、しっかりと縛り上げよ」と命じた。
そして、兄を家に入れ、あの子をかくまっている部屋に入って子供を見せた。
子供の姿を見た兄は「さては、子供を隠しておいて、わしを担ごうとしたのか」と烈火のごとく怒りだした。「冗談にもほどがある。縁起でもないこのような事をして人を馬鹿にするとは」となおも怒鳴りつけると、弟は「どうぞ、お静まりください。実は、このような次第なのです」と、事の次第を泣きながら話した。
兄はこれを聞いて、愕然とし、我が子に問うと、ありのままに語った。

大夫介はあきれ果てて、「さて、その男は先ほどまで居たはずだが、逃げはしないかな」と言うと、弟は「見張らせています」と言って、連れ出して捕縛させると、例の男は「いったい、どういう事か」と言いながらも、「ああ、やはりこんなことだと思っていた通りだ」と言ったが、大夫介は太刀を抜いて男の首を切ろうとしたが、弟はそれを押し止めて、「事の次第をすべて問い質したうえで、いかようにも処断なさいませ」と言って、場所を移して尋問すると、しばらくは口を閉ざしていたが、厳しく責められると、ついにありのままを白状した。

「継母め、何とあきれ果てた根性だ」と大夫介は思い、郎等を向かわせて家を厳重に堅めさせた。
事の真相は隠そうとしても皆の知るところとなり、従者たちも長年「奥様」と敬い仕えていたが、遠慮会釈なく口々に非難したが、継母は動じることもなく、「これは一体どういう事なのです。全く心外なことです。あの子が出てきて『私の仕業だ』などと言ったなんて。全くばかばかしい」と強く言ったが、それは、「殺したのだから、まさか子供が出てくることなどあるまい」と思っていたからであろう。

大夫介は、弟の家に四、五日留まり、子供の体調を回復させるために祈祷などして、その後に帰宅することになったが、「あの女が家に居るのであれば、顔を合わせることになる」ということで、先に弟を自宅に行かせて、継母を追い出させ、乳母を捕縛させ、継母の娘も追い出し、これらと親しくしていた者をすべて追い出してから、子供を連れて家に帰った。
このことを聞き知った者は、この継母を憎み、近くに寄せ付けようとしなかったので、母も娘も落ちぶれた姿であちらこちらとさ迷い歩いた。
あの子供を埋めた男は首を刎ね、その妻は口を裂こうとしたが、弟が「それはあの子の為に良くないことです」と制して、ただ追放することとした。

ところで、この子を穴に埋めた時に、男が慌てて菜や草や小枝を投げ込んだが、この子に生き残るべき宿報があったので、投げ込んだ物が穴の途中に引っ掛かって、子供と土との間に隙間を生じさせたため息が出来て助かったのである。これも、前世からの宿報である。
その後、子供は成長し元服した。やがて父も叔父も亡くなったが、その二人の財産を合わせて引き継ぎ、この人も大夫介となり親にもまして尊敬される人物となった。
この話は、その大夫介に会った人が本人から聞いたものである。

これらのことを思うに、継母の心根は実に愚かである。我が子のように思って養育していたら、路頭に迷うようなことはなく、その子も孝養を尽くしたはずである。
つまり、継母は、現世も後生も、自ら台無しにしてしまったのだ、
となむ語り伝へたるとや。
                                        ( 巻26-5 完 )

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* 本話は、今昔物語中屈指の長編です。

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