2010-01-01から1年間の記事一覧
( 9 ) 翌日は土曜日で、牧村の会社は休みであった。 牧村はいつも出勤する時間に見舞いのため桜木家を訪れたが、志織は昨夜のうちに入院していた。 この日は桜木製作所は営業日にあたっているが、桜木社長は在宅していた。おそらく牧村の訪問を予期して、…
き み は 虹 を 見 た か
( 1 - 1 ) 正雄くんは、少し緊張していました。 家族全員でお出かけすることはよくあるのですが、展覧会に行くことなどあまりなかったからです。それも、自分の絵が張り出されている展覧会なので、いつものように、はしゃいだ気持ちにはなれないのです…
( 1 - 2 ) 展覧会のあとのレストランでの楽しい食事から、一週間ほど経った日のことです。今度は、正雄くんがたいへんつらい気持ちになることが起きてしまいました。 入賞した絵の賞品として、正雄くんは図書カードをもらいました。展覧会の主催者から…
( 2 ) 次の日の朝、正雄くんは、お父さんが会社に出かけるのを待って起きだしました。 いつもは、お父さんが会社に出かけるのと正雄くんが起きるのは、だいたい同じ時間なのです。ですから、朝お父さんと顔を合わさないこともよくあるのですが、この日は…
( 3 - 1 ) お通夜からお葬式と、お父さんとのお別れはあわただしく行われました。 山下のおじさんが中心になって、みんなに指示をしてくれました。良子おばさんは、ずっとお母さんの横についてくれていました。近所の人たちや、お父さんの会社の人も手…
( 3 - 2 ) 正雄くんがお父さんを待ち続ける日が、何日も続きました。 学校は休まず行きましたが、友達と遊ぶことは少なくなりました。宿題を時々忘れるようになりましたが、先生はきつくは叱りません。 少し前から、正雄くんもお姉ちゃんも自分たちの部…
( 4 - 1 ) 道子さんは、弟の正雄くんのことが心配でした。 お父さんが亡くなったことを、なかなか納得することが出来なかった道子さんですが、泣いて泣いて泣き疲れた時、良子おばさんの言葉を思いだしました。 「道子ちゃん、これからは、あなたがお母…
( 4 - 2 ) このことをお母さんに話した方がいいのかどうか、道子さんは一人悩んでいました。 間もなく、お母さんが働きに行くことを道子さんは知っていました。そのことは正雄くんも知っていることですが、お父さんが亡くなったためにお母さんが働かな…
( 5 - 1 ) 正雄くんは、夜中に目を覚ましました。 何か夢を見ていたらしいのですが、どんな夢だったのか分かりません。ただ、夜中なのに目がぱっちりとしているのです。 最初は朝だと思ったのですが、目覚まし時計は十二時を少し過ぎているだけです。そ…
( 5 - 2 ) 「入りますよ」 声とともに、お母さんがドアを開けました。 「どうしたの、こんなに遅くまで、二人とも・・・」 お母さんは、二人の顔を交互に見ると、自分も床に座りました。 「マーくんが・・・、マーくんが、自分のせいでお父さんが死んだ…
( 6 - 1 ) そのあと、正雄くんはなかなか眠ることが出来ませんでした。 お母さんやお姉ちゃんと長い時間話し合ったあとの気持ちの高ぶりが、なかなかおさまらなかったからです。 お母さんもお姉ちゃんも、お父さんが死んだのは正雄くんのせいではないと…
( 6 - 2 ) あれは、正雄くんが、まだ幼稚園の年少組の頃だったと思います。 正雄くんとお姉ちゃんは、お父さんに連れられてこの公園に遊びに来ました。しばらくは三人で砂山を作ったりして遊んでいたのですが、お父さんはすぐに飽きてしまいました。い…
( 6 - 3 ) 正雄くんは、砂場の半分を探し終えました。 お父さんの靴は見つかりません。腕が痛くなってきたのを感じて、正雄くんは大きく伸びをしました。砂場には誰もいなくなっていて、あたりが薄暗くなっていました。 お昼を食べてすぐに家を出たので…
( 7 - 1 ) 道子さんは一人で心配をしていました。 激しい雨になったのに、正雄くんが帰ってきません。遊んでくると言って出かけたのですが、行く先を聞いていなかったことを悔やんでいました。 激しい雨なので友達の家ででも雨宿りしているのだと思いま…
( 7 - 2 ) 夕食になると、正雄くんは勢いよく階段を下りてきました。 階段を走って上がったり下りたりするので、正雄くんはお父さんやお母さんによく叱られていました。 でも、最近は、静かなことが多かったのです。 「今日、ぼく、お父さんに会ったよ…
目 次 第一章 萌え出づる頃 第一回 ~ 第六回 第二章 それぞれの旅立ち 第七回 ~ 第十六回 第三章 予期せぬ運命 第十七回 ~ 第二十四回 第四章 新しい出会い 第二十五回 ~ 第三十四回 第五章 激動の時 第三十五回 ~ 第四十二回 第六章 巡り巡りて 第四十…
『 天空に舞う 』 第一章 萌え出づる頃 ( 1 ) 神戸の街は、北側を山並に護られているようにして広がっている。 かつて、平清盛が福原に都を移そうと画策したのも、大輪田の泊と呼ばれるわが国屈指の良港が、貿易港として大きく羽ばたくことに夢を託したのだ…
第一章 萌え出づる頃 ( 2 ) 水村啓介と古賀俊介は、中学時代からの親友である。小学校は別だったが中学で同じになり、一年の時にクラスが一緒になった。 二人が無二の親友という関係を続けることになるのには、ちょっとした二つの事件があった。 最初の出来…
第一章 萌え出づる頃 ( 3 ) 水村啓介と三沢早知子との仲はもっと長い。 若い二人の仲を長いと表現するのも大袈裟だが、小学三年生の時からの親友である。 小学生の男の子と女の子が仲好しだということは、周囲からからかわれたり悪く言われたりすることが多…
第一章 萌え出づる頃 ( 4 ) 大原希美が西宮市に移ってきたのは、中学三年の時である。 それまでは大阪市の南部にあたる街で生まれ、ずっとそこで育ってきた。 希美の母は、この数年入退院を繰り返していたが、闘病の甲斐なく帰らぬ人となった。病が重篤であ…
第一章 萌え出づる頃 ( 5 ) 水村啓介と古賀俊介、三沢早知子と大原希美、そして、水村啓介と三沢早知子。この三組の友情は、中学生活が終わる頃にはすでに固く結ばれていた。 四人は、互いに影響を与えあい、あるいは受けあって中学生活最後の半年を過ごした…
第一章 萌え出づる頃 ( 6 ) それぞれの友情を育みながら同じ県立高校に進学した四人だが、グループで行動するようになるのは体育祭が終わってからのことである。 体育祭の運営委員会は、無事にその責任を果たし解散したが、その後も互いの信頼感は続いていた…
第二章 それぞれの旅立ち ( 1 ) 昭和五十七年三月、旅立ちの日が近づいていた。 卒業式が終わると、新しい生活のスタートとなる。 幸いなことに四人は、それぞれ希望の大学に入学することができたが、それは、グループでの活動が大きな変化を迎えようとして…
第二章 それぞれの旅立ち ( 2 ) 三月の末、四人は六甲山に出掛けた。 神戸の街の北側を護るようにして連なっているのが六甲山を中心とした山並であるが、その一帯は神戸市やその近隣の街に住む人々にとって親しむことの多い行楽地である。 四人が住む西宮市…
第二章 それぞれの旅立ち ( 3 ) 六甲山に行った日の三日後に、啓介は東京に向かった。 その前の日、早知子は啓介の家を訪ねた。ちょうど啓介の母と妹が連れ立って買い物に出掛けるところだった。 啓介の荷物はすでに東京に向けて送っていたが、まだ少し足ら…
第二章 それぞれの旅立ち ( 4 ) それぞれの大学生活が始まった。 早知子と希美は、自宅から近い女子大学に通い始めた。 恵まれた環境に建つ美しい校舎が印象的な学校である。学校の教育方針や多くの先輩たちのお陰もあって、阪神間では名門として知られた女…
第二章 それぞれの旅立ち ( 5 ) 八月早々に実家に帰った啓介は、荷物を置くとすぐに早知子の家を訪ねた。 早知子の家は同じ区画にありすぐ近くだが、土産品を届けるというのは口実で、早知子に会うのが目的であることは家族も承知のことだった。早知子の母親…
第二章 それぞれの旅立ち ( 6 ) その年の冬は、十二月二十七日に帰郷した。 啓介の帰郷したいという気持ちは夏より遥かに強かったが、家庭教師のアルバイトがあり年末近くになったのである。 この日は、新幹線に乗ってから早知子に連絡していたので、新大阪…
第二章 それぞれの旅立ち ( 7 ) 丸山公園を出た二人は、高台寺に向かう道を進んだ。 ねねの道と呼ばれている石畳の道が続いており、旧い京都の雰囲気を色濃く伝えているこの辺りは、旅する人の人気が高い散策路である。 二年坂、三年坂と名付けられている可…