2010-09-01から1ヶ月間の記事一覧
目 次 第一章 萌え出づる頃 第一回 ~ 第六回 第二章 それぞれの旅立ち 第七回 ~ 第十六回 第三章 予期せぬ運命 第十七回 ~ 第二十四回 第四章 新しい出会い 第二十五回 ~ 第三十四回 第五章 激動の時 第三十五回 ~ 第四十二回 第六章 巡り巡りて 第四十…
『 天空に舞う 』 第一章 萌え出づる頃 ( 1 ) 神戸の街は、北側を山並に護られているようにして広がっている。 かつて、平清盛が福原に都を移そうと画策したのも、大輪田の泊と呼ばれるわが国屈指の良港が、貿易港として大きく羽ばたくことに夢を託したのだ…
第一章 萌え出づる頃 ( 2 ) 水村啓介と古賀俊介は、中学時代からの親友である。小学校は別だったが中学で同じになり、一年の時にクラスが一緒になった。 二人が無二の親友という関係を続けることになるのには、ちょっとした二つの事件があった。 最初の出来…
第一章 萌え出づる頃 ( 3 ) 水村啓介と三沢早知子との仲はもっと長い。 若い二人の仲を長いと表現するのも大袈裟だが、小学三年生の時からの親友である。 小学生の男の子と女の子が仲好しだということは、周囲からからかわれたり悪く言われたりすることが多…
第一章 萌え出づる頃 ( 4 ) 大原希美が西宮市に移ってきたのは、中学三年の時である。 それまでは大阪市の南部にあたる街で生まれ、ずっとそこで育ってきた。 希美の母は、この数年入退院を繰り返していたが、闘病の甲斐なく帰らぬ人となった。病が重篤であ…
第一章 萌え出づる頃 ( 5 ) 水村啓介と古賀俊介、三沢早知子と大原希美、そして、水村啓介と三沢早知子。この三組の友情は、中学生活が終わる頃にはすでに固く結ばれていた。 四人は、互いに影響を与えあい、あるいは受けあって中学生活最後の半年を過ごした…
第一章 萌え出づる頃 ( 6 ) それぞれの友情を育みながら同じ県立高校に進学した四人だが、グループで行動するようになるのは体育祭が終わってからのことである。 体育祭の運営委員会は、無事にその責任を果たし解散したが、その後も互いの信頼感は続いていた…
第二章 それぞれの旅立ち ( 1 ) 昭和五十七年三月、旅立ちの日が近づいていた。 卒業式が終わると、新しい生活のスタートとなる。 幸いなことに四人は、それぞれ希望の大学に入学することができたが、それは、グループでの活動が大きな変化を迎えようとして…
第二章 それぞれの旅立ち ( 2 ) 三月の末、四人は六甲山に出掛けた。 神戸の街の北側を護るようにして連なっているのが六甲山を中心とした山並であるが、その一帯は神戸市やその近隣の街に住む人々にとって親しむことの多い行楽地である。 四人が住む西宮市…
第二章 それぞれの旅立ち ( 3 ) 六甲山に行った日の三日後に、啓介は東京に向かった。 その前の日、早知子は啓介の家を訪ねた。ちょうど啓介の母と妹が連れ立って買い物に出掛けるところだった。 啓介の荷物はすでに東京に向けて送っていたが、まだ少し足ら…
第二章 それぞれの旅立ち ( 4 ) それぞれの大学生活が始まった。 早知子と希美は、自宅から近い女子大学に通い始めた。 恵まれた環境に建つ美しい校舎が印象的な学校である。学校の教育方針や多くの先輩たちのお陰もあって、阪神間では名門として知られた女…
第二章 それぞれの旅立ち ( 5 ) 八月早々に実家に帰った啓介は、荷物を置くとすぐに早知子の家を訪ねた。 早知子の家は同じ区画にありすぐ近くだが、土産品を届けるというのは口実で、早知子に会うのが目的であることは家族も承知のことだった。早知子の母親…
第二章 それぞれの旅立ち ( 6 ) その年の冬は、十二月二十七日に帰郷した。 啓介の帰郷したいという気持ちは夏より遥かに強かったが、家庭教師のアルバイトがあり年末近くになったのである。 この日は、新幹線に乗ってから早知子に連絡していたので、新大阪…
第二章 それぞれの旅立ち ( 7 ) 丸山公園を出た二人は、高台寺に向かう道を進んだ。 ねねの道と呼ばれている石畳の道が続いており、旧い京都の雰囲気を色濃く伝えているこの辺りは、旅する人の人気が高い散策路である。 二年坂、三年坂と名付けられている可…
第二章 それぞれの旅立ち ( 8 ) 春休みも啓介は帰郷した。 この時は帰る途中に京都で下車した。早知子の希望で京都駅で合流することにしたからである。 京都で会っても時間はあまり取れないのだが、同じ電車に乗ってほんの少しであるが旅行気分を味わいたい…
第二章 それぞれの旅立ち ( 9 ) 五月の連休にも啓介は帰郷した。 ゴールデンウィークは、休みの日数も少ないし交通の混雑が大変なので帰らないつもりでいたが、早知子に会いたい気持ちに負けての帰郷だった。 この時も四人は集まった。 啓介と早知子の関係は…
第二章 それぞれの旅立ち ( 10 ) 早知子が東京へ行きたいと言って来た時から、啓介には予感があった。 自分の欲望を抑えきれないような予感であり、一泊の予定である以上早知子も拒まないだろうという気持ちもあった。ただ、まだ二年以上ある学生生活をどの…
第三章 予期せぬ運命 ( 1 ) 水村啓介が実家からの連絡を受けたのは、三沢早知子との愛を確かめあった日から十日程過ぎた九月中旬のことだった。 その日は学校は休みだったが、午前中は家庭教師の仕事があり、そのあと買い物などしていたので、下宿に戻った…
第三章 予期せぬ運命 ( 2 ) 啓介は、ひと月余り学校を休んだ。 初七日の法要のあと、啓介の家族や三沢家の家族も普段の生活に戻ろうとしていたが、啓介は東京に戻る気持ちになれず、毎日のように早知子の家を訪れた。西宮の街の早知子と歩いた辺りを歩き…
第三章 予期せぬ運命 ( 3 ) その年の暮れ、啓介は帰郷しなかった。 母親からはたとえ一日でもいいから帰ってくるように何度も催促されたが、友達と旅行に行く予定になっていると謝った。早知子のいない西宮にどうしても帰る気持ちにならなかった。 友達と…
第三章 予期せぬ運命 ( 4 ) 人間の記憶というものは、どのような構造から成り立っているのだろうか。 さまざまな事象や衝撃は、それが激しいものであれば記憶として深く刻み込まれ、その肉体がある限り失われないもののように思われる。 また、記憶という…
第三章 予期せぬ運命 ( 5 ) その後も定期的に、時には波状的に早知子との関わりを持ちながらも、表面的には啓介の生活は以前の状態に戻っていった。 その年の春休みも帰郷しなかったが、旧盆の季節には実家に帰った。十か月ぶりの帰郷だった。 早知子の母…
第三章 予期せぬ運命 ( 6 ) 啓介が就職先の選定に腐心していた頃、俊介と希美も卒業後の進路を固めていた。 俊介は大阪に本社がある大手商社への就職を決めていた。商社勤務が大学に入った時からの希望だった。 希美は父の会社に勤めることになった。本当…
第三章 予期せぬ運命 ( 7 ) 三月の中旬から啓介は自宅で過ごした。 就職することになった関東電器産業の入社式は四月になってからだが、寮の方へは三月中に手続きを完了するように指示されていた。 勤務地は本社に決まっていたし、独身寮は大田区にある寮…
第三章 予期せぬ運命 ( 8 ) 啓介の社会人としての生活が始まった。 最初の二ヶ月間は新入社員全員に対する研修が行われ、終了後に経理部経理課に配属された。 もっとも、研修後の配属先は入社の時点で決められていたので、配属先から研修に出ていたという…
第四章 新しい出会い ( 1 ) 水村啓介が杉井美穂子に初めて会ったのは、平成四年の秋である。啓介が妹和子の結婚式に出席した直後のことだった。 新しい部署に移って二年半程の月日が経ち、中堅社員らしい迫力が仕事面に出てきた頃である。 その頃の啓介の…
第四章 新しい出会い ( 2 ) 翌朝、啓介は一度出社してから上野に出た。 九時に待ち合わせる約束だったので十分ばかり早く着くように行ったが、美穂子はすでに来ていて切符の手配まで終わっていた。 発車時刻には大分時間があったが、列車は早く入線するこ…
第四章 新しい出会い ( 3 ) 美穂子は十日に一度位の割で関東電機産業を訪れていたが、その時には必ず啓介に挨拶するようになった。啓介が担当している別の会社に一緒に訪問することもあった。 最初に関東電機金属を訪問してから三週間ほど経ってから、美…
第四章 新しい出会い ( 4 ) 二人が初めて休日の日に会ったのは、初対面から半年程経った三月下旬のことである。 仕事のあと時間を調整しあって夕食を一緒にすることは、すでに当然のことのように二人の生活の中で定着していた。食事のあとは喫茶店に寄る…
第四章 新しい出会い ( 5 ) 公園を出た二人は、美穂子が希望したレストランで食事をした。 その食事の間、美穂子は考え込んでいるように見えた。啓介が話し掛けるといつもの笑顔を見せるのだが、すぐに不安げな様子が窺えた。 その夜はそのまま別れたが、…