雅工房 『 日々これ好日 』

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火事場の馬鹿力 ・ 小さな小さな物語 ( 1732 )

日ごろ元気な日々を過ごしていた人が、病気になり入院生活を余儀なくされたとき、それが十日余りであっても、必ずと言っていいほど話す言葉があります。「つくづく、健康のありがたさが分った」です。
十分長く生きてきた人であっても、それが初めての入院生活の場合には、十日も経たずして「健康のありがたさ」を痛感するようで、あれほど無味と感じていた日常が掛け替えのないありがたさと思えるようです。
さらに、もっと深刻な経験をしてしまった直後には、「あの日に戻ることが出来れば」「これは夢であってくれ」などといった経験は、事の重大さに差はあるとしても、経験された方は少なくないと思うのです。

「火事場の馬鹿力」という言葉があります。
「三年寝たきりの婆さんが、『火事だ』という声を聞くと、仏壇を背負って走り出した」などとなりますと、落語の世界になりますが、非常時に際して、人が実力以上の力を出すことは、現実に確認されていますし、科学的にも立証されている事のようです。
「闘争・逃走反応」という言葉もありますが、これは、人間に限らず、多くの動物は、危険な状態に直面すると、「戦うか・逃げるか・固まるか(身動きを止める)」かを瞬時に判断することで、生き延びるチャンスを高めてきたようなのです。その判断が、少しでも遅れて右往左往するようでは、生き延びるチャンスは限りなく低くなるのでしょう。
賢い人間は、それぞれによい言葉を残してくれています。つまり、「火事場の馬鹿力」「為せば成る」であったり、「逃げるが勝ち」であったり、「寝たふり・死んだふり」などです。

今、この記事を「全国都道府県対校男子駅伝」を見ながら書いています。
中学生も高校生も大学生も社会人の選手も、それぞれに郷土の代表としてタスキを繋ぐこの駅伝は、一味違う感動を与えてくれます。都道府県名が記されているユニフォームを身につけた選手は、誰もが自身の力以上の走りをしようと頑張っているのでしょうが、全員が思い通りに走れるわけではありません。体調もあるでしょうし、ペース配分もあるでしょうし、駆け引きもあって、実力以上の力を発揮する人もいれば、遠く及ばない人もいます。
人は、時にはとんでもない力を発揮することもありますが、その反対もあるのが現実の世界なのです。

スポーツの優秀な指導者の多くは、試合にあたっては、「ふだん通りの力を出しなさい」とリラックスさせるそうです。そのふだん通りの中から、時には驚異的なファインプレーが飛び出すことがあり、時にはとんでもない失敗もやってしまいますが、それらをトータルした力が実力であって、本番でその実力を出し切れない人が大変多いそうなのです。
私たちの日常生活も同様で、「ふだん通りに過ごせる」ことは簡単なようですが、そこには、それなりの配慮や思いやりがあってこそ継続するもののようです。また、日常といえども、少々の波風はあるのが当然で、それを乗り越える程度の知恵は必要とされます。
しかし、そうした知恵などではどうにもならない大事もあります。事故や自然災害に遭遇することなどもその例ですが、「火事場の馬鹿力」を発揮する事が出来ても、何日も続くわけでもありません。逃げ出せる方法もないとすれば、すくんでしまうしかありません。
私たちの社会は、そうした時のために存在しているはずです。自己努力では解決できない状態に手を差し伸べることが出来る社会であり、不運にもそうした状態に陥った時に社会の支援を信じることが出来る・・・、私たちの社会が、そうした社会でありたいと切に願っています。

( 2024.01,22 )