雅工房 『 日々これ好日 』

関連ブログ 「雅工房『作品集』https://miyabikohboh.hateblo.jp/」 「雅工房『小さな小さな物語』https://miyabikohboh.hatenablog.com/」 

歴史を変えた沓の行方 ・ 今昔の人々

     『 歴史を変えた沓の行方 ・ 今昔の人々 』


その出会いは、蹴鞠の場であった。
中大兄皇子(ナカノオオエノオウジ)は、鞠を蹴り損じ沓(クツ)が脱げてしまった。すると、そばにいた蘇我入鹿(ソガノイルカ)は、その沓を外に蹴り出してしまったのある。
まだ若い皇子は、蹴り損ねたうえ沓を蹴り出されてしまったので、顔を赤らめてぼう然と立ち尽くしていた。
その時、その場にいた中臣鎌子(ナカトミノカマコ・のちの藤原鎌足)は、その沓を拾って皇子のもとにお持ちした。皇子は、恥を重ねることなくその場を収め、鎌子に厚い信頼を寄せることになったのである。

その後、皇子は鎌子を折りに付けお召しになって引き立てられたが、鎌子もそれに応えて十分な働きを見せた。
ある時、皇子は鎌子に重大な決意を明かした。
「入鹿は、常日頃無礼を働く。天皇の仰せ事に反する行いもある。この世に入鹿があれば、世のために良くない」と暗殺を持ちかけたのある。
二人は策を立て、仲間と機会を慎重に待った。

そして、大極殿で節会が行われる時、「入鹿を討つのは今日だ」と手立てを固め、謀をもって入鹿の剣を預かり、天皇の御前で、ある皇子が上表文を読み始めたので、その隙を突いて、鎌子は自ら太刀を抜いて走り寄り、入鹿の肩に切りつけた。入鹿が走って逃げようとするのを、中大兄皇子が大刀を取って、入鹿の首を打ち落とした。
すると、その首は飛び上がって、高御座(タカミクラ)の前に参り、「私には何の罪もありません。何事によって殺されるのですか」と申し上げた。
天皇はこの企てを前もって知らされておらず、女帝でもあられるので、恐れられ、高御座の戸を閉じられたので、首は戸に当たって落ちた。

これが、世に知られた乙巳の変(イッシノヘン・大化の改新)の始まりである。
中大兄皇子は二十歳、中臣鎌子が三十二歳の頃の事であった。これによって、天皇家中心の政治が行われ、中臣鎌子に始まる、後の藤原氏台頭の切っ掛けとなった事件でもあったのである。
それにしても、中大兄皇子の脱げた沓を入鹿が蹴飛ばしたりしなければ、このような事件は起きなかったかもしれない。また、その沓が鎌子がいた辺りに飛んで行かなければ、二人の深い主従関係は生れなかったかもしれない。
沓が飛んで行ったのは、たまたまのことなのか。それとも、何らかの意志が働いたのであろうか・・・。

     ☆   ☆   ☆
( 「今昔物語 巻二十二の第一話」を参考にしました。)