中部電力の決断は、おそらく、少なくともこれからの百年間のわが国の電源開発の方向に大きな影響を与える決断であったと言われるようになる予感がしてなりません。
政府からの浜岡原発の全面停止要請に対して、中部電力経営陣の判断の良し悪しは別にして、そこから見えるものは、政府要請という形を取ってはいても、時の首相の決断となれば、規模の大小に関わらず一企業にとっては強制力を持つ命令と変わらないものであるということと、抵抗する力は一日程度が限度なのかという実感です。
何のかんのと言われても、わが国の首相の持つ力は決して小さなものではなく、国民の命運の相当部分を握っていることが感じられる出来事でした。
これにより、浜岡原発は全面停止となり、二年程先での再開を目指すことになりました。
しかし、停止させる以上、もっと検討を重ねる必要があります。停止させたからといって、福島第一の四号機のように、燃料棒を保管している限り安全ということではないのですから。
再開についても、この二年程先というのは、15m程の防潮壁の完成を待つということが主な根拠です。他にも耐震工事も行われるのでしょうが、その程度の防潮堤で安全が担保できるとはとても信じられません。
浜岡原発の一番の危険性は、津波が押し寄せることもさることながら、予想される巨大地震域の真ん真ん中に位置していることにあるのです。15m程度の防潮壁や少々の耐震工事など、若干の気休め程度なのではないでしょうか。いい加減な専門家といわれる人のデーターがどれほど役に立たなかったか、経験したばかりではないですか。
おそらく、余程大きな政治決断がなされないかぎり、浜岡原発の再開は相当な困難を伴うことでしょう。
福島第一の再開は考えられませんし、福島第二とて相当難しいでしょう。その他の原発にしても、例えば今回の地震や津波と同程度のものに襲われた場合、本当に大丈夫なのでしょうか。それに、福島第一を襲った地震や津波が最大のものだなど誰に言えるのでしょうか。
そう考えれば、現在定期点検などで休止している原発の再開は、相当の困難を伴うことでしょう。新たに計画されている建設は少なくとも十年以上は凍結されることでしょう。現在稼働しているものも停止への圧力が強まることでしょう。途中で停止に追い込まれないまでも、定期点検に入ったあとの再開に大きな圧力がかかることでしょう。どんな小さな事故に対しても、即時停止の圧力がかかってくるでしょう。
おそらく、新たな原発を建設するためには、最初に東京湾の真ん中あたりに建設許可が出ないかぎり、どの地域でも新設は難しくなるでしょう。
浜岡原発の停止は、この政権最大の決断をしてくれたことになるでしょう。
今後数年、いくら努力をしても、わが国全体の電力生産量は増加しないでしょう。むしろ減少が予想され、コストも増大することでしょう。私たちの生活にも若干の影響が予想されますが、それ以上に産業界の影響が大きく、ある種の産業はわが国での生き残りが難しくなるかもしれません。当然雇用の問題にもつながることでしょう。
しかし、同時に、わが国は、否応なしに新たな電源開発に注力しなければならなくなります。省エネに知恵を絞らなくてはなりません。ライフスタイルも変えなくてはならないでしょう。そして、そこにこそわが国の百年後を支える何かがあるのかもしれません。
私たちは、脱原発を目指す限り、急激な変化による相当の苦痛は避けられないでしょうが、根性を決める必要があります。「とりあえず浜岡だけ」などという勝手な対処は通じる筈がありません。一歩踏み出した以上は、全国民に「脱原発の覚悟」を求めるべきではないでしょうか。
( 2011.05.12 )